今回はイタリアのクリスマスの話です。
子供達が待つのはサンタクロース?それとも魔女ベファーナ?
どちらがより子供達に人気があるかという話です(笑)。
まず、誤解を避ける為に簡単にイタリアでのクリスマスとクリスマス期間を説明させて下さい。
1984年に国教制が廃止されるまで、キリスト教カトリックはイタリアの国教でした。
国教で無くなった今も尚、キリスト教カトリックは国民のあらゆる生活習慣のベースとなっています。
クリスマス(イタリア語ではナターレ=誕生)はイエス・キリストの生誕をお祝いする厳粛な宗教上の祝日であり、更にはイエス・キリストの母である聖母マリアがその母親アンナのお腹に宿った事を祝う12月8日のインマコラータ(無原罪の御宿りの祝日)から既にクリスマス期間とみなされるのです。
そして更に、キリスト生誕祭はキリストが東方からの三博士の訪問を受け、公の前に姿を現した事をお祝いする公現祭・エピファニアの1月6日まで続きます。
という訳で、クリスマスの概念は日本の様に12月25日1日のみではありません。
そのクリスマス期間内で、魔女の出番はクリスマス期間最終日の公現祭・エピファニア(正式には前日の夜から朝にかけて)となっています。
今回は、そんなイタリアでのクリスマスや魔女べファーナとサンタクロースの逸話をお話しします。
目次
イタリアのクリスマスになぜ魔女が関係する?
その魔女の名はべファーナです。
不思議な事に、魔女べファーナの存在は他のヨーロッパの国々を見回してもイタリアだけの様です。
イタリアでは元々、クリスマスはあくまでも教会で礼拝を受け、家族親族が集まってテーブルを囲むという厳粛な宗教上の行事・祝日という位置付けで、プレゼントは関係ありませんんでした。
そして、クリスマス期間の最終日に良い行いをしていた子供達にお菓子類を届けてくれるのが魔女べファーナなのです。
でも、なぜそもそも魔女なのでしょう?
やはりイエス・キリストの誕生にまつわるエピソードが関係する様です。
魔女ベファーナの由来は?
それは、次の様なエピソードからだそうです。
イエス・キリスト=救世主の誕生を知った東方の三博士は、キリストの元へ礼拝に急ごうとするのですが途中に道に迷ってしまいました。
老婆を見かけてその際に道案内人として同行してくれないかとお願いしてみたものの、老婆はそれをお断りしたのだそうです。
ところが後から断った事を大変後悔し、すぐに後を追ったものの結局追いつく事はできなかったのです。
そこで老婆はきっと誕生したばかりのイエス・キリストの家もその中にある事を祈りつつ、持参したお菓子類を周辺の子供のいる家庭に配って回ったのだと言われます。
その老婆の姿が魔女の姿となって伝えられて来て、1月6日の公現祭(エピファニア)に間に合う様に前夜から子供たちにお菓子を配ってくれる様になったとの事です。
東方の三博士(三賢者、三王や三賢人とも呼ばれる)は?
実は聖書の中でもほとんど語られていません。
だからこそ想像力を駆られて中世の頃には宗教画の中でもとても人気のある題材でした。
当時はシンボル的な意味を作品に含める事も流行っていて、三博士を青年の姿・壮年の姿・老年の姿としたり、白人・黄色人種・黒人の姿で表されたりします。
三博士はそれぞれイエス・キリストに贈り物を持参します。
黄金・乳香・没薬それぞれの表すものは王権・神聖・受難(死)の象徴とし、イエス・キリストに課せられた運命を表すという事でキリスト教の布教の為にも多く用いられた題材でもありました。
I Re Magi. #6gennaio #Epifania #Epifania2021 pic.twitter.com/mXVLOyjBpc
— Lucia (@LuciaDonati46) January 6, 2021
インマコラータ・無原罪の御宿りとは
マリアは聖霊によりイエス・キリストを授かったというのは中世の絵画などでもよく題材とされる“受胎告知”からも知られていますが、実はそのマリア様ご自身もその母アンナ様のお腹に宿ったのは聖霊によります。故に無原罪の御宿りと言われ、12月8日がその事を祝う祝日となっています。
サンタクロースも由来はキリスト教カトリックの聖人!
前記した様に、かつてのイタリアではプレゼントを届けてくれるのはサンタクロースではなくて魔女でした。
醜い老婆の姿で表される魔女べファーナではあるものの、目は優しく笑顔ですね。
なので子供たちも怖がらずに親しみを抱かれ続けてきた様です。
一方、赤い服に白い髭のサンタクロースは魔女ベファーナからしたら新入りなので後輩です(笑)。
サンタクロースはイタリア語でバッボナターレ、直訳するとクリスマスのパパとなります。
一見異教徒の文化に思えるサンタクロースも、実はキリスト教カトリックにおいて子供達の守護聖人とされている聖ニコラウス(イタリア語では聖ニコラ)がモデルだと言われています。
サンタクロースのモデルとなった聖ニコラウス
No. San Nicola, protettore dei bambini, da cui il personaggio di Babbo Natale è derivato, era rappresentato in vari colori tra cui anche il rosso già nel 1400.
Cocacola forse ha reso il rosso più famoso, ma non lo ha inventato. pic.twitter.com/TDhojdrOjr— Un alieno nel salotto (@alienoinsalotto) December 18, 2022
聖ニコラウスは紀元3世紀の終わりに小アジア(現在のトルコ)で生まれ、ミュラの司教となった聖人です。
死後その遺骸が南イタリアのバーリに運ばれ、今もそこに祀られているのでバーリの生ニコラウスと呼ばれる事もあります。
その聖ニコラウスの生涯は明らかな点は少ないものの、幾つかの有名なエピソードがあります。
中でもエピソード1の逸話から“サンタクロースは夜中に訪れて靴下にプレゼントを入れていく”となり、エピソード2から子供達の守護聖人と見做されるようになったとのことです。
聖ニコラウスのエピソードその1
ある貧しい家族の下で、貧さのあまり3人の娘が身売りをしなければならないと言う状況の家族の話を知り、その家族の家の窓から三晩にかけて金貨(金の玉という説も)を投げ入れたと言われます。
そのお陰で三人の娘を身売りさせなくて済んだというエピソード。
三晩目に投げ入れた金貨はたまたま暖炉近くで乾かされていた靴下の中に入った事から、靴下にプレゼントという習わしも生まれたとか。
聖ニコラウスのエピソードその2
これはちょっと恐ろしい話なのですが、7年前に肉屋に拐われた上に八つ裂きにされて壺の中で塩漬けにされている3人の子供を蘇生させたといわれています。
助けられた子供は、それぞれに“良く寝た”という様な感想を口にしたとか(!?)
聖ニコラウスのエピソードその3
無実の罪で死刑となりそうだった囚人を救出したと言われます。
聖ニコラウスのエピソードその4
悪天候の中で船から海に投げ出された漁師を奇跡的に天候を沈める事で救出したと言われます。
サンタクロースという名前の由来
オランダ語で聖ニコラウスはシンタクラース
オランダではこの聖ニコラウスの日である12月6日若しくはその前夜に聖ニコラウスを称えてプレゼントをする習慣がありました。
聖ニコラウスの姿は赤の司教冠に赤い司教官のマント姿で表されることが多く、そこから今のサンタクロースの赤い衣装にもつながったのではないかと言われます。
オランダからアメリカに渡った移民たちによってこの習慣は引き継がれ、シンタクラースから英語でのサンタクロースとなり世界中に広まりました。
魔女ベファーナとサンタクロースが共存のイタリアのクリスマス
•I Magi non si misero in cammino perché avevano visto la stella, ma videro la stella perché si erano messi
in cammino•🖋San Giovanni Crisostomo #DameMauve 💟
#HappyDay friends 🙋♀️
** ──── ❥ pic.twitter.com/8B7zBbBSQ9
— 💜ARitmoDelCuore💜 (@ARitmoDelCuore) January 5, 2022
いくらバッボナターレ(サンタクロース)の由来が4世紀の聖人を言えども、古くから魔女ベファーナの存在が定着していたイタリアにおいては後から来た後輩、新入り(?)ですから魔女ベファーナの存在危うし(笑)!
となりそうなところをしっかり共存出来てしまっている辺りは流石です。
これはあくまでも私の周りのイタリア人の話ですが、ある程度の年齢層の方々は今でもべファーナがプレゼントを持ってくる!という表現を使う人が多いです。
一方で子供達はというと、バッボナターレにプレゼントのお願いの手紙を書く・・というように、希望を叶えてくれるのはサンタクロースの様ですね。
簡単に言ってしまえば希望の品はサンタクロース、べファーナは良い子にしていたご褒美のお菓子という役割分担が出来ているのだと思います(笑)。
勿論、サンタクロースも良い子にしていなければプレゼントを届けてくれないかもしれませんが。
どちらにしても子供たちからすれば、よりプレゼントの回数が多い方が良いのですからどちらの存在も大切な訳です(笑)!
数年前の話ですが、お知り合いの娘ちゃんは「クリスマスにリクエストしたい物の他にも欲しい本があるから、ベファーナにはお菓子でなくて本をお願いするわ」なんてちゃっかりしていました(笑)。
ところで、良い子にお菓子を届けてくれるべファーナですが、良い子でないとお菓子ではなくて炭を置いていくと言われています。
この時期には炭に見える砂糖菓子が売られてるのがさすがユーモア溢れるイタリア!
ナマハゲに「悪い子はいないかぁ〜」なんて言われて子供達が大泣きする日本と、あくまでもシャレの効くイタリアの違いかもしれません。
イタリアでのクリスマスに子供達が待つのはサンタクロース?それとも魔女ベファーナ?
今回はイタリアでのクリスマスに子供達が待つのはサンタクロース?それとも魔女ベファーナ?というテーマでお届けしました。
魔女ベファーナはイタリア独自の存在で、サンタクロースはキリスト教の聖人が由来でありながら各国のお祭りや行事からミックスし、もはや世界中で親しまれる存在・姿となりました。
サンタクロースと魔女ベファーナが、毎年沢山の夢と希望と笑顔を子供たちに届け続けられる様に祈りたいです。